世界車旅行 ~Wild Animal Driving~
世界を車で走ってみませんか?

背景:nana

【 タイ ドライブ ③ 】トラ🐯との触れ合いの場,タイガーテンプルが消失したわけ

タイ王国(Kingdom of Thailand)

カンチャナブリーのタイガーテンプルのお話しは今回で最終回です.
これまでの記事でタイの楽しさ・魅力は伝わりましたでしょうか?
途中波乱万丈いろいろありましたが、非日常的なトラブルも旅の魅力…かな?(笑)
まだお読みでない方は,こちら↓の記事も読んでみてください!

【 タイ ドライブ ① 】トラ🐯が撫でられるというカンチャナブリーのタイガーテンプルに行ってみた!
タイのカンチャナブリーという街にある『タイガーテンプル』はなんとトラを撫でられる施設!バンコクからドライブしてトラを撫でに行こう!カンチャナブリーとはどういう街なのか,タイガーテンプルで実際に体験できること、そして現在の状況について紹介します!
【 タイ ドライブ ② 】タイでの運転🚙の仕方!複雑な交通規制と重度の渋滞への対処法
タイのカンチャナブリーにある『タイガーテンプル』ではトラを撫でることができます!そして実際に『タイガーテンプル』で行ってきたご報告をします!『タイガーテンプル』の様子やタイでのレンタカー利用方法・利用するにあたって注意した方が良いことについて紹介します!

最後に,暗い話にはなってしまいますが,『タイガーテンプルの消えたわけ』をお話ししましょう.
私は歴史の授業が嫌いでした.ひたすらよく分からない年号やら人の名前やら覚えさせられて,くだらないと思っていました.
しかし,人は過去の過ちから学ぶことで,現状を,未来をより良くすることができます.
タイの今後の発展を願う者の一員として,この悲惨で悲しいお話しをさせて頂きます.

第2回目の訪問 2016年(平成27年)9月25日

Kとnanaは,再びタイガーテンプルに向かいました.
Kは2回目の訪問ですが,nanaは初めての訪問!
虎たちとふれあえるのを楽しみにしていました.

今回は,前回の反省もふまえて,バイクを使用!
カンチャナブリーまでバスに乗り,バス停近くのバイクを借りました.
nanaはバイクの免許を持っていないので,Kがバイクを運転し,nanaは積み荷です…

いざ、行かん!

到着しました!
よし!念願の虎たちとの触れ合いです!

…と,思いきや
何か様子がおかしい…

傾いて開いたままの門扉
人の気配は全くなく
荒廃した公園内を自由に歩く,ウシ,シカ,イノシシ…

タイガーテンプルが営業していないのは明らかでした.
そこに虎は1匹もいませんでした.

BEFORE
AFTER

タイガーテンプルが消えたわけ

「微笑みの国」の裏側には闇がある

タイは「微笑みの国」と言われるほどの穏やかな国で,仏教を信じる人たちの王国です.
一見,大きな問題を抱えているようには見えません.
実際に私にも何人かのタイ人の知り合いがいますが,若干約束した時間にフレキシブルなクセはあるものの,真面目で穏やかな人たちです.

一方,タイは東南アジアのインドシナ地域においてシンガポールに次ぐ経済大国という側面も持ち合わせています.
特に首都バンコクには周辺の国から多くの人が仕事を求めてタイにやってきます.
その中には余り素行の良くない人たちも当然います.人手不足の成長産業で,人手がとにかく足りない業界にこういう外国人が入り込み,タイの治安や評判を下げてしまっています.
また,東アジア地域にはシンガポールよりも経済的には裕福な国が日本以外に2国あり,これらの2国の人たちの中に,経済マフィアがいたり,余り正直なビジネスをしようとしない残念な人たちがおり,彼らがタイに入り込んでしまっています.

虎がどこかに消えた…?消えた虎の子供たちに忍び寄る影

問題が取り沙汰されていたのは2010年頃からのようです.

虎の出生数に比べてタイガーテンプルにいる虎の数が明らかに少ないというタイ政府の発表がありました.当時は「虎を野生の状態と異なる飼育法で飼っているから短命だ」とか「近親交配が進み過ぎて短命だ」とか様々な噂が流れていました.「観光客の相手ばかりしておりそれが短命の原因」などという説もありました.

状況が一変したのは2015年のことです.
絶滅危惧種の虎の数が明らかにおかしいことに業を煮やしたタイ政府が調査を行いました.

すると、事務所の冷凍庫から虎の子供の大量の死体が発見されました.

さらに調査をしたところ,中国人ブローカーがこの虎の死骸を漢方薬として買い付けていたことがわかりました.
さらに大人の虎についても電気ショックで殺して皮を販売していたベトナム人が何度もタイガーテンプルに来ていたこともわかりました.その映像もYouTube上にはありますがなかなかに見るに耐えないです.

これに関わっていたタイガーテンプルの係官4人は逮捕.
そしてこのタイガーテンプルにいた虎達は全て国有化され,タイ中の施設に保護されてバラバラに散っていくことになりました.一説ではこの虎達の件について2016年に亡くなったラーマ9世(フミポン)国王なのか現ラーマ10世国王なのか定かではありませんが,強い憂慮の念を示されたとか.

虎と共生するためには?肉食動物と共生するという大きな問題

虎の保護vs70億人の文化的生活

タイガーテンプルは野生の虎を人間と共生させるという観点で一定の目標は達成できたように思います.
自然の状態で飼育や保護をするのが虎にとって一番だ,と言う理論も十分に理解できます.
しかしそれは可能なのかどうか?そこに対して疑問を投げかける人も多いです.
そもそも地球上には増え過ぎた70億個体もの人間がおり,どこで飼育しようがいわゆる「箱庭野生論」の域を出られないことは明白です.

自然の状態で飼育する,というなら人間の弱い個体,つまり老人や子供が虎の餌になるというリスクも含めて是認しなくてはなりません
特定の種である人間は食物網の外という発想自体が,自然の状態という概念との間に二律背反を包含しています.

しかし現在の世界を現実的な視点で見ると,食物網の最上位に道具を使う人間が大量に君臨している,というアンバランスな食物網を形成しています.
このアンバランスさを維持しつつ絶滅しかかっている特定の種の保護をするのだから,保護をされる虎にとっての自然は,実は管理された箱庭に過ぎません.そうでなければ我々が自然全てを支配できる神様だということになります.残念ながらそんな力は人間にはありません.

また,肉食動物の孤児が発生してしまう原因として「家畜を襲うから親を殺した」ということもよくあることです.ナミビアのチーターの保護施設での孤児の保護理由で最も多かったのも、家畜を襲うからという理由で射殺された親の子どもたちでした.人間にとって,肉食動物は分かりやすい食物の『競合相手』です.
肉食動物の保護と自分たちの食物を天秤にかけたとき,多くの人は自らの生活を守るために行動します.

『施設の中での保護』も虎と人間が共生するための1つの形

かつて狼が番犬や猟犬として飼い犬になったように,
リビアのヤマネコが人の穀物を食べるネズミから穀物を守る者として飼い猫になったように,
タイガーテンプルでは虎が人間と暮らしを共にする…


極めて大乗仏教的な発想ではありますが,虎と人間が共生するための1つの形として人々が工夫した結果なのでしょう.
「仏の救済は分け隔てのない一艘の大きな船」,ですから.

一方で,中国,つまり冊封体制(さっぽうたいせい)の中で切磋琢磨してきた漢民族,満州族,モンゴル人,朝鮮人など東アジアの華夷秩序(かいちつじょ)の価値観では,実は「いのち」は動物のみならず人間を含めてそれほど重要な価値を持っていませんでした.
例えば,諸葛孔明の逸話の1つに,皇帝の部下である軍師が,言うことを聞かない皇帝の妻を皇帝の目の前で二人とも平然と斬り殺すくだりがあります.民衆の間でも,劉備が友人の家を訪れたところ,友人は劉備をもてなすために自分の妻を殺して料理した,と言った話があります.

東アジアの大陸の民は「自然の状態に近い価値観」を歴史的に持っています.
だから,中国,ベトナムと華夷秩序の中で生き残ってきた民族は虎を殺すことにそれほど大きな罪の意識を持って居ないのかもしれません.

そのことについて,日本人が他民族の価値観を批判するのはお門違いでしょう.それが文化ですから.それに偉そうなこと言ったって,我々日本人だって,牛さんや豚さんのお肉をウマウマーって言って食べてますしね.「牛は良くてトラはダメか?」と言われたら,それは絶滅危惧種だから,と言う以外に言いようがないですね.

だから,大乗仏教的理想郷はそれとは異なる価値観の他者には理解不能ですし,もし人と虎が共存する理想郷を目指すなら「同じ志で」みんなが協力できないと維持することはできないと思います.
つまり,お寺の小僧さんと檀家さんだけで経営すべきだったわけで,規模を大きくして様々な考えの人がいるとその中には今回の事件のような問題を起こす人もやはり入り込みやすくなるのでしょう.
まあ,そう言う他民族も大きな船で受け入れるのが大乗仏教なんでしょうけど,多文化組織の集団統治は難しいなあ,というのが私の感想です.

ちなみに2018年にこのタイガーテンプルの元住職に,結局国有化したものの行き場が確定しない虎達を再び集めて,カンチャナブリーの地に「虎の動物園」を作る打診があったようです.その動物園は元の「ふれあい動物園」に戻るのか,それとも「登別クマ牧場」のように見るだけになるのかは不明です.そして我々外国人にはその話がどこまで進んでいるのかも全くわかりません.

どんな形にしろ,虎たちが幸せに過ごせればいいのですけどね。

そして,やっぱりまた虎と遊びたいなあ!

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